2026年2月21日(土)掲載|対象期間:2026年2月20日(日本時間 8:00) ~ 2月21日(7:00)
📊 グローバル金融市場 振り返りレポート|2026年2月21日
#日経平均 #米国株 #為替 #ゴールド #シルバー #WTI原油 #VIX #最高裁関税判決 #米GDP #米イラン #KOSPI📝 前書き
「歴史的な関税判決、即座の代替関税、そしてスタグフレーション的な経済指標」——この一言に尽きる激動の一日だった。
2026年2月20日(現地時間)、米連邦最高裁は6対3で、トランプ大統領がIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に発動してきた広範な「相互関税」を違憲と判断。この電撃的な判決を受け、ウォール街は一気にリスクオン姿勢に傾いた。しかしトランプ大統領はわずか数時間後にSection 122(貿易拡大法)に基づく10%のグローバル関税を即座に署名・施行。市場の楽観ムードに早々と冷や水が浴びせられた。
さらに経済指標が相場に複雑な影を落とした。米Q4 GDP速報値は年率+1.4%と、コンセンサス予想(+1.9%〜+2.5%)を大幅に下回る急減速。一方でコアPCEは前月比+0.4%と予想(+0.3%)を上振れ、インフレの根強さを示した。成長は鈍化しながらインフレは高止まりするという「スタグフレーション的」な構図が、FRBの政策判断を一層複雑にしている。加えて中東では米軍が対イラン軍事展開を強め、地政学リスクが金・銀・原油のコモディティ市場を支えた。
最終的に米国株はプラスで引けたものの、真のアウトパフォーマーはコモディティ市場。シルバーが+7.79%という爆発的な急騰を記録し、ゴールドも5,106.7ドルで堅調を維持した。日本・ハンセン株が下落する一方、韓国KOSPIが+2.31%と独歩高となるなど、地域間でも方向感が分かれた1日だった。
🗞️ 主要ニュース(3点ピックアップ)
① 最高裁がIEEPA関税を違憲判断——トランプ政権は判決から数時間以内にSection 122関税で対抗
米連邦最高裁は2月20日(現地時間)、Learning Resources, Inc. v. Trump(V.O.S. Selections v. Trump と統合審理)において、トランプ大統領がIEEPA(国際緊急経済権限法・1977年制定)を根拠に発動した「解放の日(Liberation Day)」関税を含む広範な相互関税について、保守派6名 対 3名(多数意見:ロバーツ長官・ゴーサッチ・バレット各判事。反対意見:カバノー・トーマス・アリート各判事)で「大統領権限の逸脱」として違憲と判断した。多数意見の骨子は「IEEPAに"tariff"や"duty"という文言は存在しない。議会が関税権限を行政府に委任する際は明示的に行うべきであり、曖昧な文言からそれを読み込むことは"重大問題の原則(major questions doctrine)"に反する」というものだ。IEEPAによる関税徴収総額は2025年通年で1,600億ドル超(Tax Foundation推計)に上り、今後の企業への還付手続きが焦点となる。
ただし、トランプ大統領は判決発表から数時間以内に記者会見に臨み、「深く失望した」と述べた上で即座に反撃。貿易拡大法(Section 122・1974年制定)に基づく一律10%のグローバル関税に署名した。同条項は最大15%・最長150日間の暫定的な通商措置であり、延長には議会承認が必要となる。政権はさらに232条(国家安全保障)・301条(不公正貿易慣行)・Section 338(スムート・ホーリー法・差別的扱いへの報復)との組み合わせも示唆しており、実効関税率は判決前の17%台から12%程度(Capital Economics推計)に低下したものの、関税をめぐる法的・政治的攻防はさらに長期化するとの見方が広がっている。市場が「違憲判決=関税撤廃」と瞬間的に楽観したものの、代替関税の即日発効が判明したことで上昇幅が限定的にとどまったのはそのためだ。
② 米Q4 GDP年率+1.4%——構造を読み解くと「思ったより悪くない」と「思ったより悪い」が混在
BEA(米商務省経済分析局)が発表した2025年Q4 GDP速報値は前期比年率+1.4%と、コンセンサス予想(+2.5%)を大幅に下回り、前期の+4.4%から急減速した。これは2025年Q1(関税ショックによる輸入急増で一時マイナス成長)以来の最低水準となる。2025年通年の成長率は+2.2%と、2020年(コロナ禍)以来の最低ペースに終わった。
内訳を分解すると実像が浮かぶ。最大の押し下げ要因は政府支出の急減(前期比▲16.6%・GDP全体への寄与度▲0.9〜1.15ポイント)で、これは43日間に及んだ史上最長の政府機関閉鎖(10月1日〜11月12日)によるものだ。一時的・政策的要因が主因であり、「シャットダウンさえなければQ4は+2.5〜3%水準だった」との試算も出ている。個人消費は+2.4%(前期の+3.5%から減速)、民間設備投資は+3.7%と底堅く、特にAI関連のコンピュータ・周辺機器投資は過去1年で+70%超と爆発的な伸びを記録している。実質民間国内最終需要(在庫・純輸出を除いた「景気の体温計」)は+2.4%と、ヘッドラインほど悪くない。
一方、足元の消費は「K字型」の分断が鮮明だ。富裕層はサービス消費を支え続ける一方、低・中所得層は物価高・借入コスト・累積インフレの三重苦で購買力が侵食されている。2025年の雇用増加数は181,000人にとどまり、2009年リセッション後を除くとコロナ前最低水準だ。
同時発表のコアPCE(12月)は前月比+0.4%(約1年ぶりの高い伸び)、前年比+3.0%と予想を上振れ。「成長鈍化×インフレ高止まり」というスタグフレーション的な組み合わせがFRBの手を縛り続けている。EYエコノミクスは「Q1 2026にはシャットダウン分の遅延活動が押し返してGDPが+2.4%程度に回復するだろう」とみており、今回の数字をそのまま景気後退の前兆と解釈することには慎重な立場が多数派だ。CME FedWatchによれば、次回FOMCの政策変更確率は94%が現状維持で、年内初回利下げは7月以降との見方が優勢となっている。
③ 米イラン緊張が極限に——週末の軍事展開リスクが市場の下値を支える
トランプ大統領は2月19日の会見で「イランは10〜15日以内に核合意に応じなければ深刻な事態に直面する」と発言。米軍はすでに空母USS Gerald Fordを含む大規模な艦艇・戦闘機を中東に展開しており、週末を挟んだ軍事行動への懸念が市場に残存した。民主党有力議員3名が議会承認なしの軍事行動に反対声明を発表するなど、国内政治的緊張も高まっている。こうした地政学リスクがゴールド・シルバー・WTI原油への安全資産・ヘッジ需要として機能し、コモディティ市場全体を下支えした。
📅 2/20(日本時間)に発表された主要経済指標
| 時刻(日本時間) | 国・指標名 | 前回 | 予想 | 結果 | 評価 |
|---|---|---|---|---|---|
| 22:30 | 🇺🇸 GDP速報値(Q4・前期比年率) | +4.4% | +2.5% | +1.4% | ↓ 予想を大幅下回る急減速 |
| 22:30 | 🇺🇸 コアPCE 前月比(12月) | +0.2% | +0.3% | +0.4% | ↑ 予想を上振れ・インフレ再燃警戒 |
| 22:30 | 🇺🇸 コアPCE 前年比(12月) | +2.9% | +2.9% | +3.0% | ↑ 予想をわずかに上振れ・高止まり確認 |
| 22:30 | 🇺🇸 PCEデフレーター 前月比・総合(12月) | +0.1% | +0.3% | +0.3% | → 予想通り・前月から加速 |
| 22:30 | 🇺🇸 PCEデフレーター 前年比・総合(12月) | +2.4% | +2.6% | +2.6% | → 予想通り・前月比で加速確認 |
| 22:30 | 🇺🇸 コアPCEデフレーター 前月比(12月) | +0.2% | +0.3% | +0.4% | ↑ 予想を上振れ・インフレ再燃警戒 |
| 22:30 | 🇺🇸 コアPCEデフレーター 前年比(12月) | +2.9% | +2.9% | +3.0% | ↑ わずかに上振れ・高止まり確認 |
| 00:00 | 🇺🇸 ミシガン大消費者信頼感・確報(2月) | 71.1(前月) | 57.3 | 56.6 | ↓ 速報値・予想ともに下回る・消費マインド低迷 |
| 00:00 | 🇺🇸 ミシガン大 1年先インフレ期待(2月確報) | 4.0%(速報) | — | 3.4% | → 速報値(4.0%)から大幅修正・下方修正 |
| 00:00 | 🇺🇸 ミシガン大 長期インフレ期待(2月確報) | 3.3%(速報) | — | 3.3% | → 速報値と同水準・横ばい維持 |
📈 株式市場
① 日本株
| 指数 | 終値 | 前日比(騰落) | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| 日経平均(Nikkei 225) | 56,825.70 | −642.13 | −1.12% |
| TOPIX | 3,808.48 | −43.61 | −1.13% |
日経平均・TOPIXともに1%超の下落となった。前日(2月19日)にVIX上昇と米イラン緊張、ウォルマートの慎重なガイダンスを受けてリスクオフムードが先行した流れを引き継ぎ、2月20日の東京市場は朝から売り優勢の展開となった。テック株・銀行株・輸出関連株が幅広く売られ、日経・TOPIXがほぼ同率の下落を示したことは、特定セクターだけでなく市場全体に売りが広がったことを意味する。
為替のドル円が155円台と円安水準で推移していることは輸出企業にとって本来の追い風のはずだが、地政学リスクとスタグフレーション懸念が重なり、そのメリットを打ち消す格好となった。来週は日銀3月会合が焦点となり、追加利上げの時期と円相場の行方が市場の注目点として浮上してくる見通し。
② アジア株
| 指数 | 終値 | 前日比(騰落) | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| ハンセン指数(HSI) | 26,413.35 | −292.59 | −1.10% |
| 上海総合指数 | — | — | 休場(春節) |
| KOSPI(韓国) | 5,808.53 | +131.28 | +2.31% |
香港ハンセン指数は−1.10%の下落。中東リスクの高まりと米GDP鈍化を受けたリスクオフ気流が香港市場にも波及した。上海市場は引き続き春節休場。
対照的に際立ったのが韓国KOSPIの+2.31%という独歩高だ。前日まで続いた調整局面からの強烈な買い戻しが発生し、サムスン電子・SKハイニックスを中心とする半導体セクターが全体を牽引した。AI需要を背景にしたメモリ・HBM(広帯域幅メモリ)の需要増への期待が根強く、最高裁の関税違憲判断を受けた「半導体装置・部品の輸入コスト削減期待」も加わり、センチメントが一気に改善した。ゴールドマン・サックスは2026年の韓国企業の利益成長率を前年比+120%と予測しており、アジア株の中では最もポジティブな評価を受けている市場の一つだ。
③ 欧州株
| 指数 | 終値 | 前日比(騰落) | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| FTSE 100(英国) | 10,686.89 | +59.85 | +0.56% |
| DAX 30(ドイツ) | 25,260.69 | +217.12 | +0.87% |
| CAC 40(フランス) | 8,515.49 | +116.71 | +1.39% |
欧州3指数は揃って上昇。前日(2月19日)はFOMCのタカ派議事録と米イラン緊張で下落していただけに、最高裁のIEEPA関税違憲判断が欧州輸出企業にとって明確な追い風として機能した。欧州向けの相互関税が無効となれば独・仏の自動車・機械・化学の主要輸出企業の収益改善につながるとの期待から、CAC40が+1.39%と最もアウトパフォームした。
ただしトランプ大統領が即座にSection 122の10%グローバル関税を施行したことが伝わると、欧州株の上値は次第に重くなった。それでもプラス圏を維持できたのは、IEEPA復活の可能性は実務上低いとみられるとのコンセンサスが広がり、安堵感が上昇圧力として勝ったためだ。欧州市場は来週以降、代替関税(Section 122)の150日間の期限内に政治的解決が進むかどうかを注視する展開となる。
④ 米国株
| 指数 | 終値 | 前日比(騰落) | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| NYダウ工業株30種 | 49,625.97 | +230.81 | +0.47% |
| NASDAQ 100 | 25,012.62 | +215.28 | +0.87% |
| S&P 500 | 6,909.51 | +47.62 | +0.69% |
米国3指数はいずれもプラスで週末を迎えた。セッション序盤、GDP+1.4%という失望的な数字を受けてダウは一時200ドル超の下落となった。しかし最高裁のIEEPA関税違憲判断が伝わると相場は一気に反転。Amazon・Meta・Alphabetなどの大手テック・輸入企業が主導する形で買いが広がり、NASDAQが+0.87%とアウトパフォームした。
NASDAQの上昇率がダウを上回ったことは、関税コスト削減期待がテック・ハードウェアセクターに集中したことを示している。午後にトランプ大統領が代替10%関税を署名したニュースが伝わると高値から押し戻されたが、前日比プラスを維持したまま週のクローズを迎えた。週間ベースでも3指数が揃って上昇し、「荒れた1週間を底堅く締めくくった」という格好となる。来週2月25日(現地時間)のエヌビディア(NVDA)決算がAI・半導体セクターの次の試金石として最大の注目を集めている。
💱 為替
| 通貨ペア | 終値 | 前日比(変動) | 方向感 |
|---|---|---|---|
| ドル円(USD/JPY) | 155.072 | +0.068 | ↑ 小幅円安・ドル強含み |
| ユーロドル(EUR/USD) | 1.1781 | +0.001 | ↑ 小幅ユーロ高(欧州株高に連動) |
| ドルインデックス(DXY) | 97.79 | −0.14 | ↓ 小幅ドル安 |
為替市場は全体的に動意薄の横ばい推移となった。最高裁の関税違憲判断を受けてドルは一時弱含んだが、代替関税(Section 122)の即時施行が判明したことで下落は限定的にとどまった。DXYが−0.14%とわずかに低下したことは、IEEPA関税をめぐる法的不確実性の解消によってドルの「政策プレミアム」が若干剥落したことを映している。
ドル円は155円台で小幅なレンジ内の動きにとどまった。日米金利差の高止まり(US10Y: 4.087%)が引き続きドル円の下値を支えており、円の反発には日銀の追加利上げ実施または米金利低下という、より明確なトリガーが必要な状況だ。ユーロドルは欧州株高と関税違憲判断の恩恵をやや受けて小幅高(+0.001)。ただしいずれの通貨ペアも週末を前にポジション調整の色彩が強く、方向感の出にくい1日だった。
📉 金利・債券
| 指標 | 水準 | 前日比 | 方向感 |
|---|---|---|---|
| 日本10年国債利回り(JGB10Y) | 2.121% | −0.018% | ↓ 小幅低下(リスクオフ・安全資産需要) |
| 米国10年国債利回り(US10Y) | 4.087% | +0.010% | ↑ 小幅上昇(コアPCE上振れで利下げ期待後退) |
米10年国債利回りは4.087%と前日比+0.010%の小幅上昇。GDP急減速は利下げ期待→金利低下、コアPCE上振れは利下げ後退→金利上昇、という逆方向の力が相殺し合い、結果としてほぼ動意がなかった。TD Economicsは「こうした環境ではFRBは当面、利下げでも利上げでもない"frozen(凍結)"状態に置かれる」と指摘しており、CME FedWatchでも年内初回利下げの時期は7月以降との見方が優勢だ。
日本の10年国債利回り(JGB10Y)は2.121%(−0.018%)と小幅低下。東京市場のリスクオフムードが安全資産としての国債需要を高め、利回りを押し下げた。日銀は2026年1月の物価指標が政府の物価対策(補助金効果)で鈍化したことを踏まえ、慎重な姿勢を維持している。3月会合での追加利上げ実施有無が日本の金利・円相場・日本株の三位一体の変数として注目されている。
🛢️ コモディティ
| 品目 | 終値 | 前日比(騰落) | 騰落率 |
|---|---|---|---|
| WTI原油先物 | $66.24/バレル | −$0.16 | −0.24% |
| ゴールドスポット(XAU/USD) | $5,106.7/oz | +$27.2 | +0.54% |
| シルバースポット(XAG/USD) | $84.619/oz | +$6.117 | +7.79% |
WTI原油(−0.24% / $66.24)
WTI原油はわずか−0.16ドルと小幅な下落にとどまった。米GDP+1.4%という数字が「景気鈍化=エネルギー需要減速」として下押し圧力となる一方、米軍の中東大規模展開という地政学リスクが供給途絶への懸念として下値を支えた。両方向の力が拮抗した結果、前日の急騰(+2.49%)後のポジション調整的な小幅下落で落ち着く形となった。週末を挟んだ米イランの動向次第では、来週月曜のオープンに大きなギャップが生じるリスクを市場は意識している。
ゴールド(XAU/USD:$5,106.7 / +0.54%)
ゴールドは5,106.7ドルで着地し、+0.54%の続伸。1月26日に史上初めて5,000ドルを突破してからわずか1ヶ月弱で5,100ドル台を固める展開となり、その歴史的な意義は大きい。ゴールドは2025年だけで+64%(1979年以来最大の年間上昇率)を達成した後もなお上昇トレンドを維持しており、これは単なる「リスクオフの逃避資産」という古い定義を超えた、構造的な「再評価(リプライシング)」が起きていることを意味する。
① 実質金利との「異例な乖離」が示す構造転換
通常、実質金利(名目金利−インフレ期待)が上昇すると、保有コスト(機会費用)が高まるゴールドは売られる——これが従来の教科書的な関係だ。しかし今回のサイクルでは、米10年実質利回り(TIPS)がプラス1%超の高水準にあるにもかかわらず、ゴールドは上昇し続けている。市場が実質金利よりも「米国債・ドルへの信頼低下」という構造リスクをより強く意識していることの証左であり、「金は利子を生まない」という従来の弱点が、「ドルも信頼できない」という文脈の中で無力化されている。
② ETFフローが「個人→機関・中央銀行」へ質的に変化
2025年は全世界の金ETFへの資金流入が890億ドルと過去最高を記録(2020年以来最大)。かつてETFフローは個人・ヘッジファンドが中心だったが、直近は機関投資家・ソブリンウェルスファンドが本格参入し、フローの「質」が変わった。J.P.モルガンは2026年の中央銀行・投資家需要を合計で四半期平均585トンと予測、世界各国の中央銀行が外貨準備における「金の割合引き上げ」という政策目標を掲げて買い続けていることが、高値圏での下値を構造的に支えている。中国人民銀行は2025年12月まで14ヶ月連続での金買い増しを継続した。
③ ドル建てvs他通貨建て——「ドル安相場」だけではない
DXYが97台と弱含む環境ではゴールドのドル建て価格が上昇しやすいが、注目すべきはユーロ建て・円建て金価格も同時に過去最高水準を更新していること。これは「ドルが弱い」だけでなく、「ゴールドそのものへの需要が世界的に高まっている」という証拠だ。J.P.モルガンは2026年末目標を6,300ドルへ大幅に引き上げており、ウェルズ・ファーゴは6,100〜6,300ドルをターゲットとしている。
シルバー(XAG/USD:$84.619 / +7.79%)
本日のマーケット最大のサプライズはシルバーだった。+7.79%(+6.117ドル)という爆発的な上昇を記録し、全資産クラスの中で最大のアウトパフォーマーとなった。その背景には複数の要因が複合的に重なっている。
第一に産業用需要への期待回復。最高裁のIEEPA関税違憲判断により、シルバーを大量使用する太陽光パネル・電子機器製造のコスト低下が期待され、産業用需要の拡大シナリオが再浮上した。第二にゴールドとの出遅れ解消。ゴールドが5,000ドルを突破する中、シルバーはゴールド/シルバー比率(GSR)が歴史的高水準にあることから「割安修正」を狙った見直し買いが集中した。第三に地政学リスクによる安全資産需要。ゴールドと同様に、中東緊張を背景とした貴金属への資金流入がシルバーにも波及した。「産業用途×貴金属×割安」という3つの属性を兼ね備えたシルバーに、異なる投資家層からの買いが一斉に集まった構図だ。
🧠 市場心理・主要テーマ
| 指標 | 水準 | 前日比 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| VIX(恐怖指数) | 19.09 | −1.14(−5.64%) | ↓ 大幅低下。最高裁判決でセンチメント改善 |
総合評価:リスクオン+リスクオフ 混在(やや「ソフトなリスクオン」)
VIXが−5.64%と大幅に低下して19.09で引けたことは、前日の警戒感(VIX 20.23超え)から一定の改善を示す。最高裁の関税違憲判断がセンチメント改善の最大の引き金となった。ただし19台という水準は依然として平時(12〜15程度)を大きく上回っており、市場参加者がリスクを完全に消化したわけではない。
リスクオン・オフのシグナルを整理すると:
- ✅ リスクオン材料:最高裁のIEEPA関税違憲判断、米国株・欧州株の上昇、KOSPI+2.31%、VIX低下(−5.64%)、シルバー急騰(産業需要期待)
- ⚠️ リスクオフ材料:GDP+1.4%(大幅ミス)、コアPCEの上振れ(スタグフレーション懸念)、Section 122代替10%関税の即時施行、日経・ハンセンの下落、VIX依然19台、米イラン軍事展開の継続
市場は今、「関税があるか・ないか」ではなく、「関税が常に政治の武器として使われ続ける」というリスクを織り込み始めている。この構造変化が最も深刻な問題だ。今後の相場で本当に問われるのは、企業と市場が「永続的な不確実性」を資本コストとして組み込んだビジネスモデルを構築できるかどうか、その一点に尽きる。
📌 全体まとめ
市場は今日、「関税の撤廃」ではなく「関税の政治ツール化の定着」を織り込んだ——そう解釈する向きが広がっている。
最高裁がIEEPAを違憲と判断した瞬間、投資家は「これで貿易戦争が終わる」と期待した。しかしトランプ大統領は判決から数時間以内にSection 122という別の権限を持ち出し、10%関税を即日施行した。問題の本質は、関税の「法的根拠」ではなく、「関税が常に政治の武器として使われ続ける」という構造そのものにある——との見方が市場参加者のコンセンサスとして定着しつつある。不確実性の「解消」ではなく、不確実性の「進化」が起きたのだ。
GDPの数字も同様の二重構造を持つ。+1.43%というヘッドラインは衝撃的だが、シャットダウンという一時要因を除いた実質民間最終需要は+2.4%と底堅い。富裕層のサービス消費とAI投資が経済を下支えする一方、低・中所得層の購買力侵食と雇用の細さが「K字型経済」の深化を示している。FRBは「景気を守りたいが、インフレを再燃させるわけにはいかない」という二律背反の中で、市場が想定するよりも長く「higher for longer」を維持するだろうとみられる。
シルバーの+7.79%急騰は今日の相場を象徴する一つの答えだ。「産業需要の回復期待(リスクオン)」「地政学ヘッジ(リスクオフ)」「ゴールドとの割安修正(バリュー)」という三層が同時に機能した背景には、今の市場が単純なリスクオン・オフの二項対立に収まらないほど複雑な構造にあることが透けて見える。
来週の注目点は3つ。①エヌビディア(NVDA)決算(2/25)——AI需要の「本物かどうか」が問われる最大の試金石。決算が失望に終われば、ナスダックの上昇シナリオ全体が問い直される。②一般教書演説(2/24)——関税・財政・安全保障に関して新たなメッセージが出れば、FX・コモディティ・株式の各市場が一斉に反応する可能性がある。③米イラン情勢——週末を挟む軍事リスクが月曜オープンの最大の地雷として残っており、ポジション管理が今週末の最優先事項だ。
引き続き、一次情報の精査と「ストーリーの裏にある構造」を読む冷静な目が求められる週末となった。
📊 マーケットデータ一覧(2/20 NYクローズ確定値)
| 資産 | 終値 | 前日比(値) | 前日比(率) |
|---|---|---|---|
| 日経225 | 56,825.70 | −642.13 | −1.12% |
| TOPIX | 3,808.48 | −43.61 | −1.13% |
| ハンセン指数 | 26,413.35 | −292.59 | −1.10% |
| 上海総合指数 | 休場(春節) | ||
| KOSPI | 5,808.53 | +131.28 | +2.31% |
| FTSE 100 | 10,686.89 | +59.85 | +0.56% |
| DAX 30 | 25,260.69 | +217.12 | +0.87% |
| CAC 40 | 8,515.49 | +116.71 | +1.39% |
| NYダウ | 49,625.97 | +230.81 | +0.47% |
| NASDAQ 100 | 25,012.62 | +215.28 | +0.87% |
| S&P 500 | 6,909.51 | +47.62 | +0.69% |
| ドル円(USD/JPY) | 155.072 | +0.068 | +0.04% |
| ユーロドル(EUR/USD) | 1.1781 | +0.001 | +0.09% |
| DXY(ドルインデックス) | 97.79 | −0.14 | −0.14% |
| JGB10Y | 2.121% | −0.018 | −0.84% |
| US10Y | 4.087% | +0.010 | +0.25% |
| WTI原油 | $66.24 | −0.16 | −0.24% |
| ゴールド | $5,106.7 | +27.2 | +0.54% |
| シルバー | $84.619 | +6.117 | +7.79% |
| VIX | 19.09 | −1.14 | −5.64% |
・経済指標・金利:Investing.com / みんかぶFX / BEA(米商務省経済分析局)/ CME FedWatch Tool
・市場ニュース・中銀動向:ロイター / ブルームバーグ / 日本経済新聞 / CNBC / 各国中央銀行公式サイト / Yale Budget Lab
・実勢価格:主要取引所データ(CME, ICE, JPX等)
・終値データ:2/20 NYクローズ確定値(スプレッドシート参照)


