原油だけじゃない|ホルムズ封鎖で影響する5つの資源(ヘリウム・硫黄・LPG・DRIなど)

2026年3月14日土曜日

ニュース解説 中東情勢

t f B! P L
PVアクセスランキング にほんブログ村

もしホルムズ海峡が完全封鎖されたら、原油より先に止まる産業があります。

それは——

  • 🔬 半導体(ヘリウム不足)
  • 🏥 医療・MRI(同上)
  • 🌾 農業・肥料(硫黄不足)
  • 🏗️ 道路・インフラ(ビチューメン不足)
  • ⚙️ 鉄鋼・製造業(DRI不足)

これらはすべて、報道では「原油・LNG」の陰に隠れている資源だ。だが在庫が尽きた瞬間に、価格と産業への影響が一気に顕在化する。

本稿では、ホルムズ封鎖によってサプライチェーンが分断されつつある「見えにくい5資源」を、生産国シェアと代替調達先のデータを交えて深掘りする。

⏱️ 30秒で読む結論
ホルムズ海峡封鎖がもたらすサプライチェーン分断は、原油・LNG・アルミ・肥料といった「報道される資源」だけで終わらない。世界の半導体製造を支えるヘリウム、農業・化学工業の基盤となる硫黄、アジア家庭用燃料のLPG、道路インフラに不可欠なビチューメン、低炭素製鉄の要であるDRI(直接還元鉄)——これら5資源の供給網が静かに壊れ始めている。いずれも代替ルートが乏しく、中東依存度が極めて高い「見えにくい急所」だ。

  • ① ヘリウム・LPGはカタール(ホルムズ経由)への依存度が高く、半導体・医療・家庭用燃料への波及が現実化しつつある
  • ② 硫黄・ビチューメンはサウジ・イランが主要輸出国。代替供給源が限られ、農業コストと建設コストの同時上昇につながる
  • ③ DRI/HBIはUAE・サウジが世界最大級の産地。天然ガスベースの製鉄原料が止まると、電炉鉄鋼メーカーの原料調達が世界規模で逼迫する
📎 前記事(本稿の前提)
【ホルムズ封鎖でモノ不足】アルミ・肥料・食料が止まる|コンテナ4方向詰まりとゴールドのジレンマ(2026年3月)
※アルミニウム・肥料(窒素系)・食料品・石油化学製品・コンテナ物流の5品目は前記事で詳述済み。本稿では前記事で扱わなかった5資源を深掘りします。

なぜ「見えにくい資源」が危ないのか

中東はエネルギー輸出地帯であると同時に、天然ガス精製の副産物・派生物の一大輸出地帯でもある。ガス田が止まれば、付随して生産されるヘリウム・硫黄・LPGも同時に止まる構造だ。

💡 元海貨業者の視点
原油・LNGは「止まっている」と即座に報道される。だが副産物系の資源は「輸入側の在庫が尽きるまで」表面化しない。硫黄もヘリウムもLPGも、価格・産業への波及は数週間〜数ヶ月後になることが多い。今がその「静かな蓄積期」だ。

ホルムズ封鎖で供給が止まる可能性のある5資源

🫧 ① ヘリウム(He) ⚠️ 深刻

中東の位置づけ:カタールは世界第2位のヘリウム生産・輸出国。天然ガス(LNG)精製の副産物として回収されるため、ラス・ラファン工業都市のガス精製が止まると同時にヘリウム生産も止まる。

📊 世界のヘリウム生産シェア(推計)
🇺🇸 米国(ワイオミング・カンザス等):約40〜45% ←世界最大
🇶🇦 カタール:約25〜30% ←今回の封鎖で停止
🇷🇺 ロシア(アムール州・ガスプロム):約15〜20%
🇩🇿 アルジェリア:約3〜5%
その他:残り

代替調達の現実:米国産が最大だが、液化設備・ISOタンクの生産能力には限界がある。ロシアはウクライナ侵攻後の制裁で西側との取引が大幅制限。実質的にカタール分を短期で補える国は存在しない。

影響を受ける産業:

  • 半導体製造——ウェーハ洗浄・CVD工程でヘリウムは不可欠。代替ガスが存在しない工程も多い
  • MRI・医療機器——超伝導磁石の冷却にヘリウムが必要。病院の検査体制に直結
  • 光ファイバー製造——製造工程での保護ガスとして使用
  • 宇宙・防衛——ロケット燃料タンクのパージやリーク検査に使用
💡 元海貨業者の視点
ヘリウムは液体で輸送されるため、輸送容器(ISOタンクコンテナ)の確保も問題になる。ホルムズ封鎖でコンテナルート自体が詰まっているため、「ガスが作れない」と「コンテナが動かない」がセットで発生する最悪の状況だ。
🟡 ② 硫黄(S) ⚠️ 深刻

中東の位置づけ:硫黄は石油・天然ガスの脱硫工程で副産物として大量に発生する。サウジアラビア・クウェート・UAEは世界有数の硫黄輸出国であり、ホルムズを通じた輸出が大半を占める。

📊 世界の硫黄生産シェア(推計・USGS)
🇸🇦 中東全体(サウジ・UAE・クウェート等):約35〜40% ←今回の封鎖で輸出停止
🇨🇦 カナダ(オイルサンド脱硫):約15〜20%
🇷🇺 ロシア:約10〜12%
🇺🇸 米国:約10〜15%
🇰🇿 カザフスタン:約5〜8%

代替調達の現実:カナダ産がある程度の代替になり得るが、アジア向け輸送距離が長く運賃コストが上昇。ロシア産は制裁問題で西側での調達困難。中東分の完全代替は難しい。

影響を受ける用途:

  • リン酸肥料の製造——硫酸(硫黄から生成)はリン酸肥料の製造に不可欠。肥料コスト上昇が農業全般に波及
  • 化学工業——硫酸は「化学工業の血液」と呼ばれ、電池・製紙・繊維・金属精錬など広範に使用
  • 金属精錬——銅・亜鉛・ニッケルの湿式製錬に硫酸が必要

注目点は肥料との二重打撃だ。前記事でカバーした窒素系肥料(尿素・アンモニア)の供給減に加え、今度はリン酸肥料の原料コストも上昇する。農業インフレ圧力は複数のルートから同時に高まっている。

🛣️ ③ ビチューメン(アスファルト原料) ▲ 高い

中東の位置づけ:イランは世界最大級のビチューメン輸出国であり、年間輸出量は約400〜500万トン(世界輸出量の約20〜25%)に上る。今回の危機でイランの輸出は完全に停止している。

📊 世界のビチューメン輸出シェア(推計)
🇮🇷 イラン:約20〜25% ←今回の危機で輸出完全停止
🇸🇦 サウジアラビア・UAE:合計約15〜18% ←ホルムズ封鎖で輸出困難
🇨🇳 中国:約10〜15%(主にアジア向け)
🇷🇺 ロシア:約8〜10%
🇰🇷 韓国・シンガポール(精製輸出):約8〜10%

代替調達の現実:中国産・韓国産精製品が代替候補だが、イラン産ほどの低コストでの供給は困難。ロシア産は制裁リスク。アジア・アフリカ向けの調達逼迫は避けられない。

影響:ビチューメンは道路舗装・橋梁・防水工事の基礎材料。供給減少は直接的に

  • 道路・高速道路の新設・補修コストの上昇
  • アジア・アフリカ途上国のインフラ建設計画の遅延
  • 建設コストインフレの波及

につながる。ビチューメンは製油所の残渣油から生産されるため、原油処理が止まれば生産も止まるという構造がある。

🔵 ④ LPG(プロパン・ブタン) ⚠️ 深刻

中東の位置づけ:LPGはガス田の随伴ガス・製油所のオフガスから回収される。カタール・サウジ・UAEは世界最大級の輸出国群であり、日本・韓国・中国・インドへの輸出はほぼすべてホルムズ経由だ。

📊 世界のLPG輸出シェア(推計)
🇺🇸 米国(シェールガス随伴):約25〜30% ←世界最大の輸出国に台頭
🇸🇦 サウジアラビア:約15〜18% ←ホルムズ依存
🇶🇦 カタール:約10〜12% ←ホルムズ依存
🇦🇪 UAE:約8〜10% ←ホルムズ依存
🇦🇺 オーストラリア:約5〜7%
🇷🇺 ロシア:約7〜9%

代替調達の現実:米国産LPGは増産余地があり最大の代替候補。ただし日本向けはパナマ経由で輸送日数が約35〜40日と長く、中東産(約20日)より大幅に長い。緊急時の在庫補充には時間がかかる。
📊 日本のLPG輸入に占める中東比率は約60〜65%(石油連盟統計)。

二つの用途が同時に影響:

  • 家庭用燃料——農村部・都市ガス未整備地域の調理・暖房用。途上国を中心に生活インフラへの直撃
  • 石油化学原料(ナフサ代替)——プロパンデハイドロジェナション(PDH)によるプロピレン製造。プラスチック・樹脂の原料コストに直結

LNGが発電・工業用であるのに対し、LPGは家庭の煮炊きに直結するため、アジア・アフリカの途上国においては人道的影響も無視できない。

⚙️ ⑤ 直接還元鉄(DRI / HBI) ▲ 高い

中東の位置づけ:直接還元鉄(DRI)とその圧縮成形品であるHBIは、天然ガスを使って鉄鉱石を還元した製鉄原料だ。中東は豊富な天然ガスと低コストを武器に世界最大の産地となっている。

📊 世界のDRI生産シェア(World Steel Association 2025)
🇮🇳 インド:約35〜40% ←世界最大だが国内消費がほぼ全量、輸出はほぼゼロ
🇮🇷 イラン:約15〜18% ←今回の危機で輸出停止
🇦🇪 UAE(エミレーツスチール):約7〜9% ←ホルムズ封鎖で輸出困難
🇸🇦 サウジアラビア(ハデード/SABIC):約6〜8% ←同上
🇷🇺 ロシア:約8〜10%
🇲🇽 メキシコ:約5〜7%
🇪🇬 エジプト:約3〜5%

代替調達の現実:最大産地のインドは国内消費優先で輸出余力がない。ロシアは制裁問題。メキシコ・エジプトは規模が小さく中東分の代替には程遠い。欧州・米国の電炉メーカーは実質的な代替調達先を持っていない。

なぜ今、重要か:

  • 電炉鉄鋼の脱炭素化トレンド——高炉(コークス使用)から電炉(スクラップ+DRI使用)へのシフトが世界的に加速中。DRI需要は構造的に増加している
  • スクラップ代替としてのDRI——欧州・米国の電炉メーカーが高品質原料としてHBIを積極輸入中。代替調達先が少ない
  • 鉄鋼→建設・自動車への波及——DRI不足は鉄鋼生産コスト上昇を通じて建設・製造業全般に影響
💡 元海貨業者の視点
DRI/HBIはバルカーで輸送される。前記事で述べた通り、ペルシャ湾内にはバルカーが280隻超が閉じ込められている状態だ。「製品は作れるが船が出られない」か「そもそも天然ガスが止まって生産自体が止まる」か——いずれにせよ輸出が止まっている現実は同じだ。

5資源の影響まとめ

資源 主な産地 日本・アジアへの影響 評価
ヘリウム カタール(世界の約30%) 半導体・MRI・光ファイバー製造に影響 ⚠️ 深刻
硫黄 サウジ・クウェート・UAE 肥料コスト二重上昇・化学工業全般 ⚠️ 深刻
ビチューメン イラン(世界の約20〜25%) 道路建設コスト上昇・インフラ遅延 ▲ 高い
LPG カタール・サウジ・UAE 日本の輸入中東依存60〜65%・家庭燃料+石化 ⚠️ 深刻
DRI / HBI UAE・サウジ・イラン(世界の約25〜30%) 電炉鋼原料逼迫・脱炭素製鉄に打撃 ▲ 高い

まとめ:「第二の波」は静かにやってくる

ホルムズ封鎖の「第一の波」は原油・LNG価格の急騰とコンテナ物流の混乱だった。前記事ではこの波を詳述した。

本稿が扱った5資源——ヘリウム・硫黄・LPG・ビチューメン・DRI——は、報道量が少ない分だけ市場の織り込みが遅れやすい。だが在庫が尽きた瞬間に価格と産業への影響が顕在化するという構造は、いずれも共通している。

特にヘリウムとLPGは代替供給源が限られており、封鎖の長期化に伴って深刻度が急速に高まる可能性がある。硫黄は肥料インフレとの連動という形で農業コスト全体を押し上げる。

「原油問題は一段落した」という空気感が出始めたとき、この「見えないサプライチェーン」が次の市場テーマとして浮上してくる可能性を、頭の片隅に入れておきたい。

引用・出典
U.S. Geological Survey (USGS) Mineral Commodity Summaries — Helium, Sulfur
World Steel Association「Direct Reduced Iron Production Statistics 2025」
石油連盟「日本のLPG輸入統計」
IEA「Middle East Energy Supply Disruption Report (March 2026)」
Helium One Global「Helium Supply Outlook 2026」
BP Statistical Review of World Energy
前稿:【ホルムズ封鎖でモノ不足】アルミ・肥料・食料が止まる|コンテナ4方向詰まりとゴールドのジレンマ(2026年3月)

🥇 執筆者:ぱぶちゃん

✍️ 執筆者 / 運営者
📈 投資歴6年 / 💹 XAUUSD(金/ドル) / 🌐 マクロ経済 / 📰 一次情報重視
🐦 X(旧Twitter): @pablo29god

世界の金融市場・経済指標を中心に、一次情報と複数の主要メディアを照合し、事実に基づき中立的な立場で整理・解説しています。投資歴6年、元海貨業者。近年はXAUUSDを中心にFXで取引中。都合により証拠金・ポジションは公開できません。難しい専門用語より「で、ゴールドどうなんだ」という視点を大切にしてるぞ。

⚠️ 免責事項
投資は、投資家自身の判断と責任で行うべきものであり、当ブログは投資判断に関する一切の責任を負いません。本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の購入・売却を推奨するものではありません。掲載している経済指標・イベント情報は、各種メディア・公的機関の発表をもとに筆者が整理したものですが、発表日時・内容は予告なく変更される場合があります。最新情報は各機関の公式発表でご確認ください。

PVアクセスランキング にほんブログ村

ほうもんしゃ

このブログについて
当ブログ「ぱぶちゃんの金・ゴールドFXマクロ」では、
世界の株式・為替・商品・金利市場の振り返りや、
ゴールド(XAUUSD)を中心に、マクロ経済の動向や重要経済指標を中立・事実ベースで徹底解析しています。
投資判断を目的としたものではなく、
情報整理と理解を目的とした内容を提供しています。

ニュースや経済指標は数が多く分かりづらいため、
当ブログでは日々のマーケット情報を整理し、 冷静に読み解くことを目的としています。

Translate

このブログを検索

人気の投稿

ブログ アーカイブ

自己紹介

自分の写真
ぱぶちゃん|投資歴6年
ゴールド・マクロ・FXを事実ベースで解説するブログを運営中。
相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。
ナンピンは得意です。
X @pablo29god

QooQ