2026年3月13日|中東情勢・エネルギー・ゴールド
「石油が来ない」——ホルムズ封鎖11日目、日本政府が動いた。備蓄放出・補助金復活・最悪シナリオまで全部わかりやすく解説
中東の戦争でペルシャ湾の出口(ホルムズ海峡)が封鎖され、日本への石油タンカーが足止めされて11日が経過した。日本政府は「ガソリンが足りなくなる前に手を打つ」として、①国の石油備蓄を過去最大規模で放出、②廃止したばかりのガソリン補助金を復活、③原油高から国民生活を守る激変緩和措置——の3本柱で対応している。ただし財源は有限で、封鎖が長引けば次の手が必要になる。
- ① 3月16日から石油備蓄を放出。量は45日分(過去最大)、ウクライナ危機時の約3.5倍
- ② ガソリン補助金が3月19日から復活。170円/Lを超えた分を国が肩代わり。財源は約2,800億円
- ③ 備蓄放出で「心理の安定」は狙えるが、ホルムズ封鎖が続く限り根本解決ではない
事実現在値$5,104はATH($5,595.46)から約▲9%の水準。地政学プレミアムは残るが、IEA備蓄放出による供給不安の一時後退でリスクオフが和らぐと、短期的に金売り圧力がかかることもある。
筆者見解ホルムズが封鎖されている間は中長期強気の基本シナリオを維持。ただし「ATH更新は目前」という断言は控え、$5,000割れのリスクも念頭に置きながら分割エントリーが現実的な対応と考える。
🌏 まず「なぜ今、石油が問題なのか」から理解しよう
事実 2026年2月28日、アメリカとイスラエルがイランを攻撃。翌3月1日にはイランの国営メディアが最高指導者ハメネイ師の死亡を報じた。反撃に転じたイランがホルムズ海峡を事実上の航行阻害・封鎖状態に置き、3月13日現在で11日目が続いている。
事実 日本は原油の9割以上を中東から輸入しており、そのほとんどがホルムズ経由だ。タンカーがペルシャ湾内で足止めされる事態が現実となり、原油価格は攻撃前の1バレル67ドル台から急騰。一時は120ドルに迫る場面もあった(3/13時点は$95.42・14:10)。
🛢️ 対策①|国の「石油の貯金」を取り崩す——備蓄放出とは何か
事実 高市早苗首相は3月11日夜、「国際エネルギー機関(IEA)の正式な協調放出決定を待たず、日本単独で備蓄放出を行う」と表明した。通常はIEAが「放出しよう」と呼びかけてから各国が動く。今回はその手順を飛ばして先に動くという異例の決断だ。
放出規模は「過去最大」
事実 まず3月16日から民間備蓄15日分を先行させ、3月下旬以降に国家備蓄1カ月分を投入する2段階構成。合計約8,000万バレル・45日分で、日数ベース過去最多を更新する。
2022年ウクライナ侵攻時の放出量:約2,250万バレル
→ 今回はその約3.5倍。日本の総備蓄(254日分)の約2割を一気に使う。
IEA協調放出でも日本が最大拠出国
事実 3月11日深夜、IEAも全加盟国一致で過去最大・計4億バレルの協調放出を決定。日本の8,000万バレルはその約20%にあたり、G7の中で最大の拠出規模となった。
| 国 | 放出量 | 人口 | 1人あたり備蓄量(参考) |
|---|---|---|---|
| 🇯🇵 日本 | 約8,000万bbl | 1.24億人 | 約3.8bbl |
| 🇰🇷 韓国 | 約2,246万bbl | 5,200万人 | 約1.8bbl |
| 🇩🇪 ドイツ | 約1,800万bbl | 8,400万人 | 約2.1bbl |
| 🇫🇷 フランス | 約1,450万bbl | 6,800万人 | 約1.8bbl |
| 🇬🇧 英国 | 約1,350万bbl | 6,700万人 | 約1.6bbl |
筆者見解 人口1人あたりの備蓄量で見ると日本は約3.8バレルでG7最大水準。日本が突出した放出量を担うのは、それだけ備蓄の「余力」があるからでもある。一方で、同じくホルムズに依存しながら備蓄インフラを持てない途上国(インド・パキスタン・バングラデシュなど)は今回の協調放出の恩恵を受けられない。エネルギー安全保障の格差は、危機のたびに露わになる。
⛽ 対策②|ガソリン補助金の「復活」——廃止してすぐ再開の背景
170円を超えたら国が補填する仕組み
事実 高市首相は赤沢亮正経産相に「緊急的な激変緩和措置を早急に実施するよう」指示した。ガソリンの全国平均小売価格が170円/Lを超えた分を、石油元売り会社(ENEOSや出光など)への補助金として国が肩代わりする仕組みで、3月19日出荷分から再開。軽油・重油・灯油も対象。
「廃止したばかり」の制度が復活した理由
事実 このガソリン補助金は2020年から続いていたが、昨年末にガソリン暫定税率(25.1円/L)の廃止とセットで終了が決まったばかりだった。わずか数カ月で復活という異例の展開だ。
財源問題:「1カ月強で底をつく」試算
事実 補助金の財源となる「燃料油価格激変緩和対策基金」の残高は約2,800億円。筆者見解原油が95ドル水準で高止まりすると1カ月強で底をつくとの専門家試算があり、封鎖が長期化した場合の財源手当てが次の政治的な課題となる。
📅 ここまでの動きをおさらい(時系列)
⚠️ 最悪シナリオ——封鎖が長引いたら日本はどうなる?
筆者見解 今回の政策は「時間を稼ぐ」手段であって、ホルムズ封鎖という根本原因を解決するものではない。では封鎖が長期化した場合、どうなるのか。
段階別シナリオ
| 封鎖期間 | 想定される影響 |
|---|---|
| 1〜2カ月 | 備蓄と補助金で対応可能。ガソリン価格は170〜200円圏で推移。物流コスト上昇が企業業績を圧迫し始める |
| 2〜3カ月 | 補助金財源(2,800億円)が枯渇の可能性。追加予算が必要になる。代替輸入(アフリカ産・米国産)の調達を本格化するが割高になる |
| 3カ月超 | ガソリン・灯油の配給制や価格統制再導入が政治的な議論に。GDP成長率への打撃が▲0.3〜0.5%pt規模に拡大する恐れ。スタグフレーション入りのリスクが現実味を帯びる |
代替ルートはあるのか?
完全な代替は難しいが、選択肢はゼロではない。
- アフリカ産原油(ナイジェリア・アンゴラなど):輸送コスト高・量に限界あり
- 米国産原油(WTI):価格が割高になりやすい。輸送日数も増える
- LNG(液化天然ガス)増量:カタール・オーストラリア産で電力・都市ガスは一部カバー可能。ただし自動車燃料・化学原料の石油代替はできない
- 省エネ・需要抑制:政府・企業・家庭レベルでの消費削減が現実的な「最後の盾」
IEA協調放出4億バレルは世界の石油消費量のわずか4日分。放出発表後も原油価格は高止まりした。備蓄放出が「心理」に働きかける間に停戦が実現しなければ、次の手段は限られる。
🥇 ゴールド相場への影響——強気材料と逆張りリスクを両面で見る
筆者見解(中長期)
ホルムズ封鎖継続+インフレ高止まりの構図は、ゴールドにとって引き続き強い買い材料だ。特に封鎖が長期化してスタグフレーション(インフレ+景気停滞)懸念が強まれば、株も債券も頼れない状況でゴールドへの資金流入が加速しやすい。
逆張りリスク(短期)
IEA協調放出や停戦交渉の進展ニュースが出た場合、供給不安の後退→リスクオフ和らぎ→一時的な金売り圧力がかかる可能性がある。特に停戦合意・海峡再開通の報道が出た瞬間は急落リスクが高い。現在ATHから▲9%の水準であり、$5,000割れのシナリオも排除できない。
筆者のスタンス
中長期強気シナリオを維持しつつ、短期の押しを想定した分割エントリーが現実的。「今すぐ全力買い」ではなく「押したら拾う」姿勢で臨んでいる。
- ガソリン:3月19日以降に補助金が反映されてから給油するのが合理的(ただし在庫不安がある場合は判断を)
- 灯油・重油:軽油・重油・灯油も補助対象。農業・物流・暖房費への家計影響は3月末以降に和らぐ見込み
- 投資:ゴールドは中長期強気だが、短期の値動きは荒い。ポジションサイズには注意。原油ETFは封鎖解除時の急落リスクあり
- 情報収集:ホルムズ情勢・IEAの追加放出・停戦交渉の進展が今後の最重要ニュース。週次でチェックを
- 首相官邸:3月11日 高市首相記者会見
- 日本経済新聞:石油備蓄放出・ガソリン補助金関連記事(3月11〜12日)
- Bloomberg Japan:G7備蓄データ(3月10日)・IEA協調放出(3月11日)
- ロイター:G7各国備蓄一覧(3月9日)
- 時事通信:IEA各国放出規模(3月12日)
- 大和総研:中東情勢緊迫化が日本経済の下振れリスクに(3月2日)
- NRI 木内登英:石油備蓄放出とガソリン補助金の合わせ技(3月12日)
- 東京新聞:補助金財源2,800億円の試算(3月12日)
- JETRO ビジネス短信:中東発着便への影響(3月2日)

