【9月17-18日 日銀会合プレビュー】利上げ確率9割の裏付け——特殊要因除くコアCPI+2.3%、刈込平均は2%到達
9月17-18日の金融政策決定会合で、日銀は政策金利を1.0%→1.25%へ引き上げる公算が大きい(市場織り込み約9割)。物価面でもこれを裏付ける材料が揃っている。
- ▶①総務省公表のコアCPI+1.8%に対し、日銀が特殊要因(ガソリン・電気ガス補助金等)を除いたベースは+2.3%——0.5pt高い。ただしこの特殊要因除くコア自体は前月の+2.6%から鈍化しており、単純な加速一辺倒ではない
- ▶②刈込平均値は2025年11月以来はじめて2%台(+2.0%)に到達
- ▶③円相場は7月末の協調介入後155円→8月末のジャクソンホール講演で一時160円台→ベッセント財務長官の度重なる口先介入で152〜153円台へと荒い展開が続いている
- ▶④背景には中東情勢による原油調達先シフト(中東→米国)とその輸送コスト増もある
📖 1. まず土台:全国消費者物価指数とは
総務省が毎月公表する全国CPIは、総合・コア(生鮮食品を除く総合)・コアコア(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)の3系列が基本形だ。前回記事で見た7月分は、総合+1.9%・コア+1.8%・コアコア+1.9%と、いずれも6月から伸びを拡大させていた。
ただし、これらは総務省が公表した「そのままの数字」だ。消費税率の変更、教育無償化政策、ガソリン・電気ガス代の補助金など、制度による一時的な押し上げ・押し下げがそのまま混ざり込んでいる。
そこで日銀は、この基本形に対して2種類の加工を施した指標を別途試算・公表している。ひとつは、消費税変更や補助金といった制度要因を名指しで取り除く「特殊要因を除いた消費者物価上昇率」。もうひとつは、その月ごとに統計的に極端な値動きをした品目を機械的に除外する「刈込平均値・加重中央値・最頻値」だ。この2つの加工を経てはじめて、政策に左右されない「基調」が見えてくる。今回はこの2つの指標が主役になる。
🏦 2. 会合概要
日銀は2026年9月17日(木)・18日(金)に金融政策決定会合を開く。市場では政策金利を現行の1.0%から1.25%へ引き上げるとの観測が強く、織り込み確率は8月23日時点で約8割、8月27日時点では約9割まで高まった。実現すれば1995年以来の金利水準となり、6月会合以来3カ月ぶりの利上げで、2024年3月からの利上げ局面では最短の間隔になる。植田和男総裁ら執行部が利上げを提案し、9人の政策委員の賛成多数で決まる見通しだ。
📊 3. 表:日銀「消費者物価のコア指標」6月→7月
| 指標 | 6月 | 7月 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 総合コアCPI(総務省公表・生鮮除く) | +1.6% | +1.8% | +0.2pt |
| コアコア(総務省公表・生鮮+エネ除く) | +1.7% | +1.9% | +0.2pt |
| 日銀・特殊要因を除く生鮮除くCPI | +2.6% | +2.3% | -0.3pt |
| 日銀・特殊要因を除くコアコア(生鮮+エネ除く) | +2.0% | +2.2% | +0.2pt |
| 日銀・特殊要因を除く米国型コア(食料+エネ除く) | +1.4% | +1.6% | +0.2pt |
| 刈込平均値 | +1.8% | +2.0%(2025年11月以来) | +0.2pt |
| 加重中央値 | +1.1% | +1.1% | ほぼ横ばい |
| 最頻値 | +1.2% | +1.4% | +0.2pt |
| 上昇品目比率 | 72.6% | 72.4% | -0.2pt |
| 下落品目比率 | 22.9% | 23.3% | +0.4pt |
出所:日本銀行「消費者物価のコア指標」公表用データ(xlsx、2026年8月25日公表分)を直接確認。総務省「消費者物価指数(全国)」ベース。
🔍 4. 読み解き①——「公表値」と「実勢」の0.5ptの差
もっとも注目したいのは、日銀の特殊要因除くコアCPI+2.3%が、総務省公表のコアCPI+1.8%を0.5ptも上回っている点だ。ガソリン・電気ガス代の補助金という「蛇口操作」がなければ、物価はすでにもっと高い水準にある——前回記事で見た「高校無償化がなければCPIはもっと高かった」というロジックが、日銀自身の試算値でも裏付けられている形になる。
📈 5. 読み解き②——刈込平均2%到達の重み
刈込平均値は6月の+1.8%から7月は+2.0%へ加速し、2025年11月以来はじめて2%台に乗った。加重中央値は+1.1%でほぼ横ばいだったが、最頻値は+1.2%から+1.4%へ上昇している。上昇品目比率は72.4%(前月72.6%)、下落品目比率は23.3%(前月22.9%)で、値上げの裾野自体はごくわずかに縮んだものの、依然として7割を超える品目が値上がりを続けている。特定品目の偏りではなく、広範な物価上昇が続いていることを示す数字だ。
💴 6. 利上げ加速のもう一つの背景:日米協調円買い介入
きっかけは7月30日・31日の2日間にわたり日米の通貨当局が実施した協調円買い介入だった。介入前には一時1ドル=164円に迫る約40年ぶりの円安水準にあったが、介入直後の8月3日には一時155円台まで急速に円高が進行。その後はじりじりと円安方向に戻し、8月13日時点では159円台まで押し戻されていた。
さらに8月28日、ジャクソンホール会議でのFRBウォーシュ議長の講演がドル高・円安に拍車をかけた。同議長は、インフレ率がFRBの目標である2%へ十分な速度で低下していると確信できなければ追加的な金融引き締めが必要になる可能性を示唆し、市場にタカ派と受け止められたことで、円は協調介入後で初めて160円台まで下落した。
潮目が変わったのは、その後のベッセント米財務長官による度重なる発言だ。8月30日、G20財務相・中央銀行総裁会議に合わせて米ノースカロライナ州で開かれた植田総裁との会談で、「円の大幅な過小評価に対処するため、日本が断固とした市場・金融政策上の措置を講じることを強く支持する」と表明したことが9月1日に公表され、市場では日銀への利上げ催促と受け止められた。翌31日のCNBCインタビューでは「日本政府と日銀がより強い円につながる措置を講じると確信している」とも発言。さらにG20期間中の会見では、日本に対し財政拡張・低金利を重視する「リフレ政策」からの転換を求めたとも報じられた。9月8日にはテキサス州での講演で円売り筋を「今は私が胴元だ(I am the house now)」とけん制した。これらを受けて円相場は9月4日に156円台、9月8日には一時152円台まで急速に円高が進行し、現在は152〜153円台で推移している。9月利上げは、すでにこうした為替材料も含めて相場にかなり織り込まれている。
⛽ 7. 原油調達先シフトの実態——中東情勢が日銀会合にまで及ぶ理由
中東情勢の悪化を受け、日本の原油調達構造は大きく変化した。財務省貿易統計の地域別内訳(数量ベース)を見ると、中東シェアは1月92.3%→4月85.8%→7月59.3%へ低下する一方、米国シェアは1月5.4%→4月10.2%→7月36.3%へ急拡大している。資源エネルギー庁の石油統計速報(7月分、8月31日発表)でも中東依存度58.9%(前年同月比28.7ポイント減、10カ月連続で前年を下回る)とほぼ同水準の数字が確認でき、輸入量では米国が434万kl(前年同月比4.6倍)で、UAEの351万kl・サウジアラビアの320万klに迫る規模まで拡大している。
背景にあるのは2026年3月頃からのホルムズ海峡の通航支障だ。日本の原油の約9割を占めていたホルムズ経由ルートが困難になり、UAEのフジャイラ港やサウジのヤンブー港(紅海側・非ホルムズ)に加え、輸送距離がより長い米国産への切り替えが進んだ。5月時点で米国からの調達は前年比約4倍まで拡大している。
これに対し政府は、①JOGMECを通じた輸送コスト支援制度(元売り・商社からの新規納付金を財源、2026年8月開始)②IEA基準90日分の国家備蓄積み増し目標(2026年度中に回復、2027年度にはナフサ国内精製分含め90日分)③ガソリン価格激変緩和措置による小売価格の全国一律抑制④元売りへの安定供給要請、という対応を取っている。
そしてこれが今回の会合にもつながる。8月の企業物価指数は+7.6%と、中東情勢に由来する輸入コスト高が続いていることを示している。輸送距離の長期化・船舶確保・海上保険料上昇・スポット調達比率上昇というコスト増要因が、川上(企業物価・輸入物価)の高止まりという形で実際に表れているわけだ。この川上の高止まりは、ガソリン補助金・電気ガス補助金という「蛇口」で川下(消費者物価)への転嫁は抑え込まれているものの、日銀の「特殊要因除く」指標や刈込平均値には確実に滲み出てきている。原油調達先シフトによるコスト増は、CPIの表面上の数字には出にくい形で、日銀が9月会合で利上げを急ぐ実質的な根拠のひとつになっていると言える。
📉 8. 周辺指標:経常収支・GDP
7月の経常収支は2兆9,889億円の黒字(2カ月ぶり黒字)。4-6月期GDP改定値は年率+1.4%へ上方修正された(速報値+1.1%から引き上げ)。主因は設備投資のマイナス幅縮小(前期比-1.2%→-0.9%)で、法人企業統計を反映した結果。個人消費もわずかに上方修正されプラスに転換している。景気面では利上げを妨げる材料は乏しい。
🔮 9. 会合後シナリオ
焦点はすでに「利上げするかどうか」ではなく、「利上げ後もどれだけタカ派姿勢を維持できるか」に移っている。氷見野良三副総裁は8月27日の講演で、次回以降の運営については「毎回の会合で議論する」と述べるにとどめつつ、物価上振れリスクへの警戒は強調した。
もし利上げ後のペースが市場の織り込みより緩やかだと受け止められれば、円相場が再び下落に転じるリスクもある。2026年度後半にかけて物価上昇率がさらに高まる可能性がある中、円安が物価にさらに拍車をかけるリスクを抑える必要性は増している。
📚 主な出典
- 日本銀行『消費者物価のコア指標』公表用データ(xlsx、2026年8月25日公表分。6月・7月の刈込平均値・加重中央値・最頻値等を直接確認)|データ(xlsx)
- ロイター『特殊要因除くコアCPI、7月は+2.3%に鈍化 コアコアは加速=日銀』(2026年8月25日、Yahoo!ニュース配信)|記事リンク
- ニューズウィーク日本版『特殊要因除くコアCPI、6月は+2.7% 21カ月連続で2%以上=日銀』(2026年7月28日、6月分の当初公表値。8月25日公表時点で6月値は+2.6%へ改定)|記事リンク
- 日本経済新聞『日銀、9月政策金利1.25%へ 利上げ加速で物価上振れリスク回避』(2026年9月11日)|記事リンク
- 国際通貨研究所『2026年9月金融政策決定会合の注目点』(2026年9月9日)|レポートPDF
- 第一生命経済研究所『都区部版・消費者物価のコア指標(2026/07)』(星野卓也、2026年7月31日)|記事リンク
- 日本経済新聞『原油の代替ルート調達コスト支援へ 経産省、国家備蓄にナフサも勘案』(2026年8月7日)|記事リンク
- 財務省『貿易統計』2026年1月分・4月分・7月分|7月分PDF
- 資源エネルギー庁『石油統計速報 令和8年7月分』(2026年8月31日)|経産省公式ページ
- 総務省統計局『2025年基準 消費者物価指数 全国 2026年(令和8年)7月分』(2026年8月21日)|総務省公式PDF
- ダイヤモンドオンライン『23兆円規模「円買い介入」でも止まらない円安』(円相場の時系列)|記事リンク
- 日本経済新聞『円160円台に下落、日米協調介入後で初 FRB議長が利上げ前向き発言』(2026年8月28日)|記事リンク
- アゴラ『ドル円は160円台:なぜジャクソンホール直後に円安が進んだのか』(2026年8月29日)|記事リンク
- 楽天証券トウシル『ドル円「150円割れ」のシナリオも?』(ベッセント発言と円高の経緯)|記事リンク
- ザイFX!『米ドル/円は152円の重要サポートを割り込めば147円まで下落も!「胴元は私だ」ベッセント米財務長官が異例の挑発』(2026年9月)|記事リンク
- 読売新聞オンライン『米財務長官、日銀・植田総裁に「日本の市場・金融政策措置を強く支持」と表明』(2026年9月1日)|記事リンク
- STOCK EXPRESS『ジャクソンホール会議でウォーシュFRB議長が利上げ示唆』(2026年8月28日)|記事リンク
- 日本経済新聞『実質GDP年率1.4%増に上方修正 4〜6月改定値、3期連続プラス』(2026年9月8日)|記事リンク
- 時事通信『主要各国の金融政策スケジュール』、氷見野良三副総裁講演(2026年8月27日)。前回記事:【2026年7月 全国CPI】総合+1.9%・コア+1.8%・コアコアも+1.9%へ全指標で伸び拡大——高校無償化の押し下げ効果は6月と変わらず一定、川上物価7%超との溝は埋まらず
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