【為替介入の仕組み】円はどこから来て、ドルはどこから来るのか~財務官のGOサインの先で何が起きているか
2026年8月3日|ぱぶちゃんのファンダメンタルlab
令和8年熊本地震により、多くの尊い命が失われましたことに深く哀悼の意を表します。また、被災された皆様、そしてご家族・ご関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。一日も早く皆様が平穏な日常を取り戻せますよう、被災地の復旧・復興を心からお祈りいたします。
⏱ 30秒で読む結論
為替介入の資金は「円売り」と「円買い」で調達方法がまったく異なる。円売りは政府短期証券(FB、Financing Bills)の発行で無限に近く調達可能な一方、円買いは有限の外貨準備を取り崩す必要がある。この非対称性が、日本の介入史が長らく円売り偏重だった構造的理由。実行部分は財務大臣が方針決定、日銀為替課が執行という役割分担になっている。
📚 本記事は全3回シリーズの第2回(仕組み編)です。第1回は歴史編、第3回は法律・財源論を扱います。
📖 為替介入シリーズ全3回
- 第1回:為替介入の歴史
- 第2回:為替介入の仕組み(本記事)
- 第3回:得た円はどこへ消えるのか(法律・財源論)
1|円売り・ドル買いの場合、円はどこから出てくる?
円売り・ドル買い介入の場合、政府短期証券(FB)を発行することによって円資金を調達し、これを売却してドルを買い入れる。取得したドルは外貨準備として積み増される。
- 1999年3月まで:政府短期証券の全量を日本銀行が直接引き受け
- 1999年4月以降:市場での完全入札方式に変更
- 円は自国通貨のため、国会承認の範囲内でほぼ無制限に調達可能
- 2003~04年に35兆円もの巨額介入が可能だった理由もここにある
つまり円売り介入に事実上の上限はほぼない。国会承認という政治的な上限はあるが、有限の資産を取り崩す外貨準備のような制約とは性質が異なる。この「調達しやすさ」こそが、前回の記事で触れた非対称な構図の背景にある、日本の介入史が長らく円売り偏重だった構造的な理由でもある。
2|円買い・ドル売りの場合、ドルはどこから出てくる?
円買い・ドル売り介入の場合は、外為特会の保有するドル資金を売却して円を買い入れる。つまり過去の円売り介入で積み上げてきた既存の外貨準備を取り崩す形になる。
| 介入方向 | 円の出どころ | ドルの出どころ |
|---|---|---|
| 円売り・ドル買い | 新規に政府短期証券(FB)を発行して調達 | 買い入れて外貨準備として積み増し |
| 円買い・ドル売り | 外貨準備から取り崩して売却 | 既存の外貨準備(証券+預金)を取り崩す |
2026年6月末時点の外貨準備高は約1兆2870億ドル。このうち証券(主に米国債)が約7割、預金(NY連銀等)が約1割強を占める。介入では預金分から優先的に使用し、不足分は証券(米国債)を売却して充当する。預金の1600億ドル程度(円換算で約25兆円前後)が、証券を売らずに即座に動かせる実質的な「弾薬」の目安とされる。2026年に入ってから4月末~5月末の11.7兆円、7月末~8月の追加介入で、この預金枠に迫るペースで消費が進んでいるとの見方もある。
⚠️ 米国債売却と市場への影響
外貨準備の大半が米国債で運用されているため、大規模な円買い介入を行うと米国債市場への影響が懸念される。この点は2026年5月時点で既に市場の関心事になっており、FRBが保管する外国当局の米国債残高が減少したことから「日本が米国債を売却したのでは」との観測が広がっていた。そして8月に入り、財務省自身が公式にFRBの常設制度「FIMAレポファシリティ」の活用に言及した。これは保有する米国債を担保にドルを一時的に借り、期限が来れば担保の米国債を取り戻してドルを返済する仕組みで、資産そのものを手放さずに資金繰りができる。つまり市場での米国債売却を回避する手段があり、円買いには外貨準備という「有限の弾薬」の制約があり、円売りとは非対称という点は変わらないが、FIMAレポの存在によって米国債市場へのインパクトはかなり緩和されている。
3|為替介入の実際のオペレーション
為替介入は財務大臣の権限で実施されるが、実際に市場でボタンを押すのは日本銀行のディーラー(日銀為替課)である。日銀と財務省の間では、介入の何日も前から日々の相場情報のキャッチボールが常時行われている。
🔄 決定から執行までの流れ
- 情報収集(常時):日銀為替課が市場動向を監視し、毎日財務省国際局為替市場課(財務省為市課)へ報告
- 介入の決定:財務大臣が必要と判断→財務省為市課が日銀為替課に連絡→日銀為替課がマーケット情報を提供
- 実行指示:財務省為市課が日銀為替課に具体的指示→日銀為替課(ディーラー)が市場で実際に売買を執行
- フィードバック:市場の反応を見ながら財務省側に情報提供し、実施方法が随時見直される双方向プロセス
- 決済:約定成立後は日銀国際局バックオフィスが引き継ぎ、SWIFT等で取引先と照合し、中央銀行預け金勘定間の振替で決済
協調介入の場合、日本銀行が海外の通貨当局に介入を委託する「委託介入」、逆に海外当局から委託を受ける「逆委託介入」という形態もある。複数の通貨当局が協議のうえで、各当局の資金を用いて同時・連続的に実施するのが「協調介入」で、それぞれの当局が自分の資金とオペレーションで動く点がポイントだ。
🇺🇸 米国側のオペレーション:対称的だが仕組みは違う
2026年7月30日~8月1日の日米協調介入では、米国側は「ドル売り」ではなく「ユーロ売り・円買い」を実施した。米国の為替介入は財務省が持つ為替安定化基金(ESF、Exchange Stabilization Fund)を原資とし、米議会調査局(CRS)の分析によれば2026年2月時点でESFの流動資産は米国債235億ドルと外貨・外貨証券43億ドルで構成されている。外貨部分はユーロ建てと円建てが中心だが、規模自体はそれほど大きくなく、1回の大規模介入で流動資産の大半が拘束されかねない小さな基金でもある。ドルを売って円を買う形にすると米国内のドル流動性や短期金利に直接影響し、FRBとの調整がより深く必要になるため、手元のユーロ建て資産を売却する方が会計上も実務上も機動的とされる。執行主体もニューヨーク連銀で、政策決定は財務省・市場での執行はニューヨーク連銀という分業体制は、日本の「財務大臣が決定・日銀為替課が執行」という構図と対称的だ。実際、ベッセント米財務長官の手元メモには「日本円の買い、50億~100億ドル」という記載があったと報じられており、円換算でおよそ8000億円~1兆6000億円に相当する。日本の単独介入に比べれば規模は小さいが、市場が反応したのは金額の大小ではなく「米国が円買い側に立った」という事実そのものだった。
権限は財務大臣にあるが、「引き金を引く手」は一貫して日銀為替課、というのが日本の為替介入オペレーションの実像だ。米国側もこれと対称的に「財務省が決定、ニューヨーク連銀が執行」という同じ二層構造を持っており、この二つの二層構造が噛み合うことで協調介入が成立している。次回の記事では、円買い介入で得た円がその後どこへ行くのか、法律上の扱いも含めて掘り下げる。
出典
- 日本銀行「日本銀行における外国為替市場介入事務の概要」
- 日本銀行「為替介入(外国為替市場介入)とは何ですか?」
- 財務省「外国為替資金特別会計」
- 日本銀行「政府短期証券(FB)の公募入札発行について」
- 財務省「債務管理リポート 第2章 政府短期証券、借入金、政府保証債務、交付国債」
- Bloomberg「円買い介入の原資巡り議論活発、米国債売却観測-FRB保管残高が減少」(2026年5月8日)
- 日本経済新聞「財務省がドル確保策に言及、SNSに投稿」(2026年8月1日)
- ゴールドオンライン「「1ドル170円時代」来るか―6月FOMC後のドル円と日米の為替介入シナリオを探る」
- note(宮野宏樹)「円安阻止へ日米の波状介入 ベッセント長官の手元メモが映した「1998年以来」の共同歩調」
- 米議会図書館・議会調査局(CRS)「Treasury's Exchange Stabilization Fund」
✍️ 執筆者/ぱぶちゃん|投資歴6年/ぱぶちゃんのファンダメンタルlabを事実ベースで解説するブログを運営中。相場の「なぜ?」を一緒に考えましょう。ナンピンは得意です。/X(旧Twitter):@pablo29god
© 2026 ぱぶちゃんのファンダメンタルlab

